数々の芸術家に愛され、
「海を越えた色」という名を持つ
ウルトラマリン。
金よりも高価な色として芸術家に重宝されたり、
芸術家の家族を
貧乏のどん底に追いやったりしてきました。
その魅惑のブルー
ウルトラマリンについて解説します。
Contents
ウルトラマリン顔料とは
ウルトラマリン顔料の原料は
宝石の一種であるラピスラズリです。
ラピスラズリは何世紀もの間、
アフガニスタン北部の山脈にある
乾燥地帯でのみ採掘されており、
金よりも貴重だと考えられてきました。
ラピスラズリはアフガニスタンから海路で
ヨーロッパまで運ばれてきたため
「海を越えた色」と呼ばれたのです。
ラピスラズリのラピス(Lapis)は
ラテン語で「石」を指し、
ラズリ(Lazuli)は「青」や「空」を意味する
ペルシャ語の「lazward」が語源とされています。
和名は瑠璃(るり)といい、
サンスクリット語のヴァイドゥーリャ(Vaidurya)の
音訳であると言われます。
また、深い青色から藍色が美しく、
しばしば黄鉄鉱の粒を含んで
夜空の様な輝きを持つことから、
古代ローマの博物学者プリニウスはラピスラズリを
「星のきらめく天空の破片」と表現しました。
古代エジプトの書籍では、
真ん中に金が埋め込まれ
目の形に彫られたラピスラズリが
魔除けとして扱われていたり、
クレオパトラがラピスラズリの粉で
アイシャドーを施していたことからも、
このブルーがいかに神聖な色として
扱われていたかが分かります。
世界で最初にウルトラマリン顔料を使った洞窟画
はじめて粉末にして絵具に用いたのは、
6-7世紀におけるアフガニスタンの寺院の洞窟画とされ、
バーミヤン石窟(アフガニスタン)、
キジル洞窟(中国ウイグル自治区)などで
仏画の背景を彩った
鮮やかな彩色が残っています。
色そのものと、
その貴重性、希少性、輝きが、
宗教画における宗教的人物の地位を
直接表しています。
ヨーロッパにおけるウルトラマリン顔料
このウルトラマリンの精製法は、
13世紀初頭にヨーロッパで急速に発達し、
ルネサンス期における大変重要な顔料となります。
14-15世紀にかけて最盛期をむかえ、
フラ・アンジェリコの『受胎告知』(1430年頃)↓や
ランブール兄弟装飾写本
恋の季節
(ベリー公のいとも豪華なる時祷書 第6葉5月)
(1412-1416年) ↓
などウルトラマリン顔料を語る上
で欠かすことのできない作品の多くが、
この時期に制作されています。
ルネサンス期やバロック期には、
ペルジーノやマサッチオ、ティツィアーノ、
フェルメールなどの
多くの重要な画家たちによって用いられました。
通常、とりわけ聖母マリアのような
画面の中心的な人物の衣服に用いられました。
ラファエロ ベルヴェデーレの聖母(1505-1506)↓
聖母マリアが
いつも神聖な青を身に纏っているのは
ウルトラマリン顔料の希少性から
といわれます。
この色は謙虚さと純粋さを
象徵するようになり、
同様に依頼したパトロンの
富を示すようになります。
当時、ウルトラマリンブルーは
大変高価であったため
画家のパレットに
必ずあったわけではなく、
パトロンが絵画制作を依頼する時に
注文していました。
マリアが描かれていない未完成作品が
多くあるのはそのためといわれます。
フェルメールも魅了されたウルトラマリンブルー
17世紀、
オランダの芸術家ヨハネス フェルメールは
ほとんどの作品で
ウルトラマリン顔料を使いました。
「真珠の耳飾りの少女」のターバンは
美しいブルーがとても印象的ですね。
真珠の耳飾りの少女(1655)↓
少女のターバンは
ウルトラマリン、鉛白で塗られ、
純粋なウルトラマリンで仕上げられています。
水差しを持つ女(1662)↓
この絵もブルーが美しく印象的です。
ウルトラマリン顔料の製法
ヨーロッパのルネッサンス時代、
ラピスラズリは大変希少なもので、
塗料に使えるように細かく砕く工程にも
時間がかかり、とても高価なものでした。
天然ウルトラマリン顔料は、今でも
1kgの鉱石からわずか30gの顔料しか
生産できないそうです。
合成ウルトラマリン顔料ができてからは
天然顔料しかなかった時代には
考えられないほど、気軽に
このブルーを使えるようになりました。
天然ウルトラマリン顔料
ラピスラズリを
ウルトラマリンの顔料にするには
まず石を細かい砂状に砕き、
解かしたワックス・油・松ヤニなどと
混ぜます。
できた塊をうすい灰汁の中でこねると
粒子が容器の底に沈んでいき、
最終的には青い粒子を含んだ
透明な抽出物が完成します。
ウルトラマリン顔料は、
ラピスラズリを粉末化しただけでは
作る事の出来ない顔料です。
たとえ、ラズライト(青金石)含有量の多い
最高級クラスの原石を用いたとしても、
やや灰色を帯び、
その青の濃さには限界が生じます。
中世の名作に残るような
鮮やかな濃紺色を得るためは
ラピスラズリから青色の成分だけを抽出し、
青色を濃縮する必要がありました。
合成ウルトラマリン顔料の誕生
上記のような状況を見かねて、
1824年、フランスの工業奨励協会は
「ウルトラマリンの代わりになる顔料を
開発した人に6000フランを与える」
と発表。
数週間後、
フランスの薬剤師である
ジャン=バプティステ・ギメ氏と
ドイツ人研究者の
クリスティアン・グメリン氏により
合成ウルトラマリン顔料が開発されました。
合成ウルトラマリン顔料は
カオリン、ソーダ灰、燐、木灰などを用いて作られます。
合成ウルトラマリン顔料が
開発されたことにより
人々を魅了してやまなかった
貴重なこのブルーが
天然ウルトラマリン顔料しか
なかった頃に比べて
考えられないほど身近なものになりました。
ウルトラマリン顔料の現在
現在、
合成ウルトラマリンは他の顔料と
同じような値段で販売されていますが、
やはり微妙に色合いが違うため、
「天然のウルトラマリンを手に入れられる
ならば自分の耳を切ってもいい」
とまで言う画家は多くいます。
一方で、
合成ウルトラマリン顔料には
鉱物が含まれていないゆえに、
天然ウルトラマリンよりも
豊かな色合いだという声もあります。
ウルトラマリンのこの美しいブルーは
時代を超えて
人々を魅了する色であることは
間違いないですね。
昨年2020年の秋に
筆者の個展で展示させていただいた
こちらの絵も
ウルトラマリンブルーの
アクリル絵の具を使っていますが
一番人気でした♪
大竹麻友 title 月夜
(ボタニーペインティング® 2020)
ゴールドが映えるこのブルーは
神聖さや清らかさ、
澄んだ空気の夜の空のような
感じのする
個人的にもとても好きな色です。
アートのワークショップを開催しても
人気の色ですね。
不動の人気色だと思います。
さて、
実際に天然ウルトラマリンを
抽出してみた方の動画がありました!
手間暇かがっていますが
とても美しい顔料ですね。
ぜひご覧ください♪
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